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2021.09.26

category:コーヒーのこと

カフェそしてコーヒー豆のお話し

入山十百花店を開くのにあたり、コーヒーを花やグリーンと共に提供したいとかねてより考えていた。コーヒーは学生時代から大好きで大学時代お世話になった喫茶店もあるし、花屋にカフェを併設できたらと花屋に就職した時からお世話になった喫茶店でよく夢を語っていた。

コーヒー豆を卸してもらえるツテもいくつかあったが、今回の出店に際しコーヒーに関してはそう、杉内と最初から決めていた。数年来会ってはいかなかったが学生時代の友とは不思議なものでいつまでたっても距離を感じない。迷わず杉内に連絡して本所(彼の焙煎所兼カフェ)を訪ねた。何度もミーティングを重ね、保健所の許可や揃える器具など一から教えてもらい、抽出のトレーニングをし、そして入山十百花店にカフェが誕生しスペシャリティコーヒーを提供できることとなった。

そんな入山十百花店のカフェとコーヒーが生まれるストーリーを杉内が一筆認めてくれた。少し長いが最後までコーヒーを飲みながら読んでいただければと。

最後に杉内夫妻には本当に感謝しかない。ありがとう!この恩返しは美味しいコーヒーを愚直に淹れ続けてお客様に喜んでもらい、お店を続けることである。さあ、今日も昨日より美味しくコーヒーを淹れられるよう頑張ろう。

 

〜サンシャイン・ステイト・エスプレッソ 杉内氏による寄稿〜

僕がはるか前に卒業した大学の友人が,花屋とカフェをオープンしたいと言う。おお,そうか,何か役に立つことはあるか,コーヒーのことならきっと役に立てるぞ,というわけで何十年ぶりかで大学の頃のような近い付き合いが再び始まった。

まずもって,現代のコーヒー事情は僕がチェーンのカフェに,茂木さんが個人の喫茶店にいた頃とはちょっと,いやずいぶんと様変わりしている。僕はSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)の委員を務めており,日本や世界のコーヒーシーンの最先端に触れることができる位置にいる。そんな僕でもコーヒー生産から飲むコーヒーの抽出まで,日進月歩と言える新しい技術や,生まれては消える刹那的なコーヒー文化を確かに追っているという感触は薄い。何年か前に「コーヒーの実をワイン樽で発行させるとな,すごくおいしくなるんだってさ」と言って発酵について荒っぽい議論をされていたのが,いまや「発酵過程におけるフラン系の物質の増加が」などと生化学系の研究者のようなことをコーヒー関係者が言うようになっている。2020年代の流行はいかに発酵の工程を複雑でもの珍しいものにするかだ。発酵で発生するさまざまな物質がコーヒーの価値を決めると言っていい。どこで栽培するか?何の品種にするか?有機栽培だ?そんなの古い,誰も使ったことのない酵母を探すんだ!というのが最先端のコーヒー業界なのだ。

そんな中,僕のお店,自家焙煎のコーヒー屋だが,サンシャインステイトエスプレッソはちょっとだけ古いタイプの運営方法を取っている。信頼できる生産者の,誠実に手作業で作られた,シンプルに美味しいコーヒー生豆を仕入れ,浅煎りから深煎りまでバリエーション多く焙煎をし,お求めやすい価格で販売している。最先端のコーヒーを仕入れ,極浅煎り(これが最先端のコーヒーを最も魅力的に見せる焙煎度合いなんだそうだ)で焙煎し,うやうやしくパッケージに入れて高値で売る,そういうビジネスには足を突っ込めないでいる。

茂木さんが花屋をやる,そしてカフェもつくる,そう言って相談しに来たときに「近所の人がさあ,ちょっと気軽に立ち寄れるような店にしたいんだ」と言った。さて,僕が焼く豆は茂木さんの言うような店に合うのか,どうだろうか。答えはもちろん「合う」のである。よっしゃ茂木さん,できるだけ難しくなく,コーヒーをしっかり楽しんでもらえるような店にしていこうじゃないか,手伝うよ,というわけで,茂木さんご夫婦のお店のカフェ部門について,参加させてもらうことになった。

ところですでに入山十百花店に行かれた方はご存じだろうと思うが,名前の通りお花屋さんがメインの商売となっている。それもそのはず,ご夫婦ふたりとも花卉についてはプロフェッショナルなのだ。なんならカフェは無くともご商売は可能なんだろう。しかしそこに茂木さんの「ご近所さんが」というところがプラスされて,カフェを併設するという計画になったようだ。だから,カフェはお花屋さんあってのカフェ。僕はプランを手伝うときにそれをしっかりと心に留めて,話をしていった。

茂木さんは学生時代に喫茶店でアルバイトをしていたけど,それはもう忘れてもらって,現代のコーヒー豆と,現代の抽出理論と,現代の風味特性の評価を覚えてもらうことにした。古き良き喫茶店風のやり方や味わいを追求しても,ちょっとオールドなファンはつくのかもしれないけど,これからのお店なんだから,あたらしい時代のお客さんと歩いていってほしいと思い,すっかり現代式のもので覚えてもらって,実践してもらうことにした。もちろんコーヒー豆もスペシャルなものを使ってもらう。ありきたりなものではなく,我らがサンシャインステイトエスプレッソが2014年から買い付けを続ける,看板銘柄をベースにブレンドを作った。と言っても実際にブレンドを作ったのは茂木さんご夫婦で,サンシャインステイトエスプレッソの店頭にあるたくさんの銘柄を,何パターンもちょっとずつ混ぜては飲み混ぜては飲みして,コーヒーに酔いながらも作ったオリジナルのブレンドだ。これでコーヒーの風味は舌の肥えたコーヒー好きにもきっと唸ってもらえるはずだ。

オリジナルブレンドは,コロンビアとエチオピアのブレンドなのだが,特にコロンビアのほうについてちょっとお話させてもらいたい。そのコーヒーは首都ボコタの南西400キロほどのところにある,村全体が標高2000メートル級という高地のトトロ村の生産者が作ってくれているロットで,非常に凝縮感のあるコクと,さわやかな香り,そしてあと口がスッキリとしているコーヒーである。

トトロ村の生産者から毎年,サンシャインステイトエスプレッソは一年分のコーヒーを前もって注文をして購入をしている。2014年からなので今年で7シーズン目のお付き合いである。コーヒー生産というのは,赤道付近の山あいのところが名産地となっており,生産国はと言えば貧しい国が多く,その中でも山奥でコーヒーを作る生産者たちは決して楽な暮らしができているわけではないことが多い。それでも,工業生産品や地下資源の輸出を持たない国では農作物の輸出が大きな外貨獲得の手段で,農業に従事する人口の割合はかなり大きいものがある。しかし,政治や経済がままならない国が多いので,たいてい,コーヒー生産者というのは,文化的な生活も,教育や医療というような社会的なインフラにも,なかなか満足できるレベルにないことが多いのだ。トトロ村もほかの多くの生産地と同じで,その暮らしは決して楽ではない。しかしコーヒー生産が(麻薬など非合法なものを除くと)彼らの住むところでもっともお金になるので,一生懸命コーヒーを作っているのだ。だから,彼らのところにある程度まとまったお金を払えていることに僕たちは喜びを感じるし,そのコーヒーを飲むことで僕らを通して生産者へ間接的にお金が移動することを実感してもらえるということで,皆さん消費者にも社会貢献というあたたかな気持ちを感じていただけると思う。

茂木さんご夫婦のメインのご商売は花屋ということで,これがまた全くはコーヒーと同じ農作物であり,また,絶対に生活に無くてはならないという必需品ではなくて生活に彩りを加えるような嗜好品であるところも似ているのが面白い。生産者は一生懸命に草木を育て,良いところで収穫をし,茂木さんご夫婦のお店を通して消費者の生活を楽しませるということが,同じだ。なんて奇遇なんだろう。

サンシャインステイトエスプレッソはコーヒー焙煎を生業にしているので,入山十百花店のコーヒーが原料から抽出,提供まで一貫して素晴らしいものになりますように,と思ってお手伝いをしたのだが,なんのことはない,茂木さんご夫婦のほうが,原料さえ理解すればあとはお手のもの,流れはお花もコーヒーも同じように,お客さんたちに感動を与えることができるものとしてお客さんに手渡すことができるのだった。

あれこれ教えなきゃ,あれこれわかってもらわなきゃ,あれこれできるようになってもらわなきゃ,そう思っていたのは最初のころだけ,途中からは茂木さんご夫婦にはお花で培ってきたいろんなモノがあるのだから,基本のキだけ教えればあとはきっと上手くできるはずだと思って,最低限のレシピや技術だけを伝授するだけにした。本当はもっともっと手取り足取りと思ったのだが,それはもしかしたら蛇足になるのではないかと思ったからだ。

さて,サンシャインステイトエスプレッソと入山十百花店のタッグはいったい成功したのだろうか?それはいまこの文章を読んでいるあなたが知っているはずだ。……そう,成功したんだと。

<了>

 

文責:ホゼ@サンシャインステイトエスプレッソ